2年続いた”小規模宅地等の特例”の見直しの内容を解説します

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相続税専門の税理士。創業16年で国内トップクラス1,690件の相続税の申告実績。103億円以上の相続税の減額・還付実績。
岡野雄志税理士
岡野雄志税理士

小規模宅地等の特例

“小規模宅地等の特例”の見直しについて詳しく解説しています。

「小規模宅地の特例」ができた理由とは?

この特例は国から見れば税収が少なくなってしまうものですが、制定の目的は国民生活の安定と事業の継続をしやすくするためとされています。

一般に不動産は高額評価となるので、相続財産に現預金が少ない場合は相続税の支払いのために実家を売らなければならないといったケースも出てきます。
そうなると国民の安定した生活を脅かすことになってしまうので、土地を減額評価することで税負担を減らし、自宅に住み続けられるようにしようというのが趣旨の一つです。

また個人や家族で営む事業にはそのための土地が必要ですから、これも税金のために手放さなければならなくなると事業の継続ができなくなり、家族が路頭に迷ってしまうことになりかねません。
これはまた、国からみればその事業から得られる税収が無くなってしまうということでもありますから、中小零細の事業者を守ることは国にとっても利益のあることです。
こうした事業性のある土地についても減額評価し、相続税負担を減らすことができるようになっています。

このように、国民生活の安定や事業の継続をしやすくするというのが本特例の目的となります。

小規模宅地の種類とそれぞれの要件

一定の小規模の宅地が本特例の適用対象となりますが、宅地はいくつかの種類に分けられ、それぞれ要件が設定されています。

以下でその種類と主な要件を見てみます。

特定居住用宅地等

この種類は、a被相続人の居住の用に供されていた土地や、b被相続人と生計を一にしている親族の居住の用に供されていた土地が対象になります。
上記の土地について、土地の取得者が配偶者になる場合は取得者にかかる条件はありませんが、それ以外の相続人については以下のような条件が課されます。

aの土地としては、同居していた親族が当該土地を相続する場合、相続開始から相続税の申告期限までその土地を売らずに所有し居住していることが必要です。

非同居の親族が相続する場合は、

被相続人に配偶者がいないこと
被相続人に同居していた他の相続人がいないこと
当該土地の相続人が当該土地を相続税の申告期限まで保有していること
当該土地の相続人は相続開始前3年以内に自分または配偶者が所有する、国内にある家に住んだことがないこと

以上に加え、平成30年の税制改正で以下の2要件も加えられることになりました。

当該土地の相続人は相続開始前3年以内に3親等内の親族、特別の関係にある法人が所有する、国内にある家に住んだことがないこと
相続開始時に居住していた家屋を、相続開始前に所有していないこと

bについては、土地の取得者となる被相続人と生計を一にしていた親族が、相続開始から相続税の申告期限までその土地を売らずに所有し、居住していることが必要です。

特定事業用宅地等

この種類は、a被相続人の事業の用に供されていた土地や、b被相続人と生計を一にする親族の事業の用に供されていた土地の二つに適用があります。

上記ab両者共、相続人は相続税の申告期限までにその土地を保有していなければならない他、aの場合は相続税の申告期限までに相続人がその事業を引き継ぎ、かつ継続していること、bの場合は相続開始の直前から相続税の申告期限まで、その土地上で事業を営んでいることが必要です。

特定同族会社事業用宅地等

この種類は被相続人及び被相続人の親族が発行済株式の総数または出資総額の50%超を有している会社(特定同族会社)の事業(貸付事業以外)の用に供されていた土地が対象です。

要件としては、当該土地の相続人が相続税の申告期限において特定同族会社の役員であることが必要で、かつその土地を相続税の申告期限まで保有していることが必要です。

貸付事業用宅地等

この種類は、a被相続人が営んでいた貸付事業の用に供されていた土地や、b被相続人と生計を一にしていた親族の貸付事業の用に供されていた土地などが対象になります。

上記ab両者共、土地の相続人が相続税の申告期限までに当該土地を保有していることが必要で、さらにaの方は相続人が相続税の申告期限までに被相続人の事業を引き継ぎ当該事業を行っていること、bの方は相続開始前から相続税の申告期限まで、その土地の貸付事業を行っている必要があります。

なお貸付事業用宅地等においては平成30年の税制改正で、原則として相続開始前3年以内に新たに貸付事業に供された土地については対象外となりました。

ただしその場合でも、相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている場合は対象となります。

減額の限度面積と減額割合について

前項①~④の各土地はそれぞれ減額対象になる面積の限度が決められており、減額の割合も決まっています。

1.特定居住用宅地等……330㎡までを限度に80%の減額評価となります。
2.特定事業用宅地等……400㎡までを限度に80%の減額評価となります。
3.特定同族会社事業用宅地等……400㎡までを限度に80%の減額評価となります。
4.貸付事業用宅地等……200㎡までを限度に50%の減額評価となります。

「特定事業用宅地等に係る小規模宅地等の減額の特例」の見直し

平成31年税制改正において、個人事業者の事業承継を促進する目的で相続税・贈与税の納税猶予の新制度が創設されました。この新たな納税猶予制度については、事業用の宅地と事業用の建物、減価償却資産について、税額の猶予をするほか、相続税のみならず生前贈与にも適用可能とする制度です。この制度は、納税猶予割合を100%とするなどかなり思い切った内容となっています。

一方で、個人資産の内に占める土地の割合は比較的高く、この納税猶予を適用することで過度な節税となりかねません。そうならないためにも、相続税における「特定事業用宅地等に係る小規模宅地等の減額の特例」とどちらか片方だけ選択して適用する取り決めとなっています。
これに伴い、「特定事業用宅地等に係る小規模宅地等の特例」については、事業承継の支援という制度主旨を遵守させ、制度の濫用を防止するという観点から、その対象となる宅地の範囲がより制限されることとなりました。

改正前の制度の概要

「特定事業用宅地等に係る小規模宅地等の減額の特例」とは、相続又は遺贈により取得した土地のうち、被相続人等(※1)が亡くなる直前に事業(※2)の用に供していた宅地等で、一定の要件を満たしている宅地等については、一定の相続人が取得した場合には、その宅地等の相続税評価額を400㎡まで80%OFFにできるという非常に大きな減額の特例です。
改正前までの特定事業用宅地等の範囲は、あくまで「相続開始の直前において、被相続人等の事業の用に供されていた宅地」と規定されているのみであり、事業供用が認められさえすれば適用ができていました。

※1)被相続人等とは、被相続人のほか、被相続人と生計を一にしていた(被相続人とお財布が一緒だった)親族が含まれます。
※2)不動産貸付業や駐車場業など貸付事業を除きます。

改正後の制度の概要

特定事業用宅地等の範囲から、相続開始前3年以内に事業の用に供された宅地等が除かれます。
これは、昨年の平成30年税制改正の中の「貸付事業用宅地等」の改正にならい、『相続人等による事業継続を守る』という本来の小規模宅地等の減額特例の趣旨から逸脱した適用(節税目的の駆け込み的な適用など)を防止するための改正です。
要するに、亡くなる直前の入院などのタイミングで個人の遊休地等を無理くりに事業用に転用する様なケースが防止されるわけです。

なお、範囲から除く対象として、以下のケースは除かれています(つまり、下記に該当した場合には、従前どおり小規模の適用ができます)。

宅地等の相続税評価額 × 15% ≦ 宅地等の上で事業供用されている減価償却資産の価額

小規模宅地等の減額の特例だけを切り取ってみると、特定事業用宅地等の範囲が狭まったため、納税者にとって不利な改正内容と感じられるかもしれませんが、税制全体からすると「個人事業者の事業承継税制」とどちらか有利な方を適用できる内容なので、一概に不利とは言い切れません。

適用時期

平成31年(2019年)4月1日以後に相続等により取得する財産に関わる相続税から適用が開始されます。ただし、同日前から事業の用に供されている宅地等については、除外されます。

貸付事業用宅地等の適用条件の見直し

被相続人等の貸付事業の用に供される土地について、200㎡までを限度に50%の減額評価を受けることができるものですが、今回の改正では、相続開始3年以内に新たに貸付事業の用に供された土地については原則として適用を除外することとされました。

ただし相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付事業を行っている場合は例外として適用対象に入ります。

少しややこしいですが、相続発生の直前に一時的に現金を不動産に換えて相続税の減税を狙う手法が問題視されたため、相続発生に近接した時期に貸付事業を始めるようなケースを適用除外としたものです。

例えば相続発生の3年以内に土地を購入して賃貸業を始めたようなケースでは特例の適用を原則受けられないということになりますが、減税目的でなく純粋に不動産業を事業として行っているケースまで適用を除外してしまうのはよくありません。
そこで、相続開始前3年を超えて事業的規模で貸付業を行っている場合には、相続開始前3年以内に購入された土地についても適用除外とせず、特例の適用を受けられるようにしています。
事業的規模の判断についてはまだ明確な基準が出ていませんが、所得税の基準を準用するとした場合、戸建ての貸し付けであれば5棟程度、アパートやマンションであれば10室程度、駐車場としてであれば車50台程度の規模で事業を行っている場合には事業的規模と認めてもらえることになります。

適用時期

平成30年の4月1日から適用があります。

家なき子特例の適用要件厳格化

次に、特定居住用宅地等に関するルール変更について見ていきます。

この変更については世間で「家なき子特例」というワードで議論されることがありますが、それは変更前からの従来の適用条件の中に、以下のようなものがあったからです。

「相続開始3年以内に、対象土地の取得者が、本人またはその配偶者が所有する家屋(相続開始直前において被相続人が居住していた家屋を除く)に居住したことがないこと」

上記はすなわち、対象土地の承継者となる人物について、自身(配偶者含む)が所有する家がない=「家なき子」として捉えたものです。

被相続人の居住用に提供されていた土地について、被相続人と同居していない親族が当該土地を相続する場合において、この家なき子に該当するための条件が厳格化されました。
自分自身、そしてその配偶者だけでなく、「三親等内の親族」と「特別の関係がある一定の法人」が加えられ、これらの者らが所有していた家屋に相続開始3年以内に居住したことがある場合は適用対象から外されることになりました。

従来は、自分自身や配偶者名義の自宅が無いことが条件であったため、親族などに自宅を売却して自ら「家なき子」になるようにして無理やり適用を受けようとする手法が問題視されたためです。
上記の「特別の関係がある一定の法人」とは、特例の適用を受けようとする本人またはその配偶者、三親等内の親族、内縁関係者等、本人と近しい関係にある者が一定数以上の株式を保有するなど影響力を及ぼすことができる会社のことを指します。
自然人だけでなく、影響力のある会社に売却することで「家なき子」になろうとすることも封じるためです。

これに「相続開始時に居住していた家屋を、相続開始前に所有していないこと」という条件も加えられ、所有する家屋を事前に譲渡するなどして「家なき子」になることができなくなったのです。

適用時期

平成30年4月1日以降から適用があります。
ただし、平成30年3月31日時点において、変更前の家なき子要件を満たしている場合には、平成32年3月31日までに相続等で対象土地を取得する場合には特例の適用を受けられるなど一定の経過措置が講じられています。

家なき子特例がつかえなくなる例

この項では、特定居住用宅地等について、改正後に特例の適用を受けられなくなるケースを見てみます。

適用除外になる事例は色々と考えられますが、いくつか考えてみましょう。

相続財産の土地を孫に相続させることによって、家なき子特例に該当させようとするケース(孫から見て親は三親等内の親族なので、親が自宅を所有して一緒に居住していれば対象外になる)
対象土地を承継する相続人となる子どもが、自身が所有する自宅を誰かに売却し、以後はその家を借り受けて住み続けるケース
対象土地を承継する相続人となる子どもが、影響力のある会社に自宅を買い取らせて家なき子になろうとするケース
対象土地を承継する相続人となる子どもが、自身が所有する自宅を自身の子ども(被相続人からみて孫)に贈与して家なき子になろうとするケース

他にも色々と考えられますが、ご自身が家なき子特例になれるかどうかの判断は難しいこともあるので、相続対策を講じる際は相続税に詳しい税理士と相談しながら進めるようにしてください。

まとめ

被相続人が個人事業を行っているような場合には、今後は生前から「特定事業用宅地等に係る小規模宅地等の減額の特例」と「個人事業者の事業承継税制」の検討を行っておくべきでしょう。
貸付事業用宅地等と特定居住用宅地等についてのルール変更は、制度の抜け穴をつくような手法で特例を利用することが封じられることになりました。
従来から、この特例全体のルールがそもそも素人の方にとって難しい上に、細かい変更が加えられています。適用を考えている場合は相続専門の税理士に相談しましょう。

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岡野 雄志

早稲田大学商学部卒業。
2005年に神奈川県横浜市の新横浜に事務所を開設して以来、相続税申告や相続税還付、相続税の税務調査、生前対策など、横浜に限らず全国各地の相続分野の案件を1690件以上手がけてきました。
特に土地の評価を得意とし、相続税還付の実績は業界でもトップクラス。相続税に関する書籍の執筆にも力を入れているほか、各種メディアからの取材実績も多数あります。

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